建築士コラム

建築とデザイン

水口 真希

建築の衣替え

吉田兼好が「徒然草」で「(家は)夏をむねとすべし。」と書いていましたが、今や、空調設備に頼り切りになってしまっていて、少々寂しい気もします。

家の大掃除と言っても、換気扇や網戸の掃除であったり、そこにある物を綺麗にすると言った具合でしょうか。しかし、昔の大掃除と言えば、畳を干したり季節ごとに建具を交換したり大事(おおごと)でした。正確には、私が体験したのは、そのほんの一部で、あとは聞いただけですが少し紹介したいと思います。

「お盆」と一言で言っても、地域により、若干その言葉が指す時期は異なるでしょう。そうは言え、「お盆」の時期は、耐え難く暑い時分です。

私がまだ学生だった頃、お盆に北陸の田舎に帰った時、祖母の指示のもと、仏壇の装飾や夏の室礼を変える手伝いをしたことがあります。建築の衣替えといったところでしょうか?
その家は、祖父の生家で江戸時代に建てられました。水回りは改築しているので近代的ですが、間取りは昔ながらのままです。道路に面して広い土間があり、その奥に囲炉裏のある大広間。2階部分まで吹き抜けになっています。その奥に座敷・仏間があります。

畳の上には、「籐」の敷物を引き、座布団袋は夏用の麻地のものにかけ替えました。床の間の掛け軸は、夏の季節に合うものを飾りました。(どのような図柄だったかは覚えていません。)縁側には風鈴や簾を吊り、木戸は葦戸に交換しました。

仏壇は、一畳分を占めるような大きなものです。香炉や花立・燭台など、装飾品全てが日常用から法事用に交換しました。日々、蝋燭や線香の煙などで煤汚れた日常用の装飾品は、きれいに磨きました。
年々暑さが増しているものの、昨年、一室にルームエアコンを設置するまで、涼を取るのは扇風機のみだった。それでも、室礼を変えて、風が通すことで過ごせる暑さに出来たのだ。

北陸だから涼しいのだろう?と思われるかもしれないが、京都でもそのような室礼を見ることはできる。京都市下京区にある『杉本家住宅』だ。ここは一般公開もされており、烏丸駅からも近いので買い物のついでにも立ち寄るのも良いだろう。子供の頃の懐かしを感じる方もいれば、真新しさの発見をする方もいるだろう。

折角、四季のある日本に住むのだから、季節を感じれる室礼を楽しんでみてはどうでしょうか?季節の花を一輪飾るだけでも、少し豊かな生活になるでしょう。夏になったら、フローリングの上にひいていた絨毯を、籐や井草ラグに変えると部屋の香りで季節を感じることもできます。

庇を大きく張出し夏の日差しを遮り、冬に暖かな日差しを取り込む。風の向きを確認し、窓の位置を考えます。

私たち設計者も、四季折々を快適に過ごせる設計を心がけなければいけないと再認識しました。

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