EXTRA EDITION

○RAFT

松永 康宏

in ベルーガ号

クルーザーの内装デザインは初めて。
戸惑いや苦労もいろいろあったが、だからこそ、やりがいがありました。

#01 クルーザーに関わったきっかけ

ー どのような経緯で内装デザインを手掛けることに?

このクルーザーのオーナーは、古くからお付き合いさせていただいている某企業の役員の方で、そのつながりから依頼を受けることとなりました。もちろん、クルーザーの内装をデザインするのは初めてですので、戸惑いと驚きの連続でした。私たちがこれまでに手掛けてきた建築とは、何から何まで違うんです。たとえば、緩やかなカーブを描くFRPの壁。このような曲線的で弾性のある構造体は、建築の世界にはあり得ないですから。

ー もっとも驚いたのは、どういったところですか?

展開図もなければ、工程表もなく、すべて手探りで進めなければいけなかったことですね。何度も何度も、造船の現場へ足を運んで打ち合わせを重ね、「ここには、こういう素材を貼って…」と、その場でひとつずつ提案・指示をさせていただきました。オーナーにとっても、内装を自分好みにつくり上げていくのは初めての経験でしたので、丁寧に進めていくことを心掛けました。結局、完成までに1年半ほどかかったと思います。いろいろと苦労もしましたが、初めてのことばかりだったので、やりがいと面白さを感じられる仕事でした。

#02 デザインのコンセプトについて

ー どのようなキャビン(空間)になることを目指しましたか?

コンセプトに掲げたのは、機能性と居住性の両立。このクルーザーは、フィッシングポイントに素早く到着することを目指した高速船です。そのため、もともとの枠組みとしては機能性・軽量性に特化されています。しかし、航海に出ると1週間以上も船上で暮らすこともあることから、居住性もしっかり確保したいと考えました。ゆったりとしたベッドを置いた主寝室・ゲストルーム、L字型のソファに座ってリラックスできるサロンは、そんな想いを込めてデザインしています。

ー オーナーのこだわりに応えたところについて教えてください

操縦することもまたクルーザーの醍醐味のひとつですので、コックピットには相当こだわりを持っておられました。ですので、モニターやイスの位置はもちろん、座ったときの視界の広がりなど、こまかなところまで打ち合わせをし、ご要望に応えることを目指しました。実際に航海を始めると、船首が少し上向きになるというアドバイスも受け、微妙な調整を重ねました。また、オーナーは明るい空間を好まれていました。しかし、ただ単に照度をアップさせるだけでは、あまり居心地のいい空間にはなりません。そこで、ソファ背面や壁面にライン照明を設け、「照明の面積」を広く確保することで、照度を抑えながら明るいと感じられるキャビンに仕上げています。

#03 ディテールの創意工夫について

ー マテリアルへのこだわりについて教えてください

建築との大きな違いは、クルーザーはよく揺れるということです。また、FRPという構造体には「きしむ」という特性もあります。この点に注意し、壁にはクロスではなく、「ダイノックシート」という破れにくく丈夫なものを。また、収納扉にはすべてラッチを取り付け、中の棚には落下防止用の凸部を設けています。このような工夫は、建築では行なったことのないもので、ほんとうに一つひとつがすべて勉強することばかりでした。

ー その他、クルーザーのデザインだからこそ凝らした創意工夫はありますか?

その問いへの答えは「すべて」なのですが、ひとつだけピックアップするなら、キッチン下部収納の扉にブラックミラーを採用したことです。サロンのソファに座ると、このブラックミラー越しに、アフトデッキ(後部のデッキ)にある釣り竿の様子を見ることができるんです。釣果を気にしながら、ゆったりと寛げるようにという想いのもとでデザインしました。こうしたこまかなこだわりの数々が、オーナーにも気に入っていただけたようです。じつは、完成後、私も航海に連れて行ってもらったのですが、とても快適な船旅でした。今後も、このベルーガ号とともに優雅な海の旅を愉しんでいただければと思っています。

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